タロットカードの事を調べているうちに「初期の遊戯札は、どのようなものがあるのか」が知りたくなる人も多いのではないでしょうか。
2016年ニューヨーク、メトロポリタン美術館で開催された『The World in Play:Luxcury Cards,1430-1540』は1430年代から1540年の約百年間にヨーロッパ各地で使われていた遊戯札(PlayingCard)を紹介した貴重な展覧会となっていると言えるでしょう。
本エントリでは、同展覧会で紹介されている遊戯札の幾つかを解説に記載されているDateを基準に年代順に紹介します。
※画像は全て『The World in Play:Luxcury Cards,1430-1540』からの引用です。
リンクも同展覧会への外部リンク(英文)となっています。
※この記事は2016年10月18に執筆致しました。
閲覧時期によってはリンク先の記事が消失している可能性がありますことを予めご承知おきください。
【The Stuttgart Playing Cards 1430】
ドイツ、 Rhineland(ライランド地方)製。52枚(現存49枚)
猟犬・アヒル・王侯などが描かれた可愛らしい雰囲気のある遊技札。
参考画像は左から『King of Falcons』『Upper Knave of Falcons』『9 of Falcons』
スートの構成はFalcons、 Ducks、 Hounds、 Stags
それぞれのスートは FalconsとDucksがKing、Upper Knave、 Under Knave、 Banner (10)、 9 ~1、
HoundsとStagsがQueen、Upper Dame、Under Dame、Banner (10)、9~1で構成されています。
あとでも紹介しますが、ドイツにはソラブスカタロット以前に数札(ヌーメラルカード)に絵が描かれている遊戯札が幾つか存在します。
もっともウェイト・スミス・タロットカードに影響を及ぼしたと言える遊戯札は存在していないようで、スルーされがちなのかな、という印象があります。
●The Stuttgart Playing Cardsの解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【The Master of the Playing Cards 1435-40】
ドイツ、 Rhineland(ライランド地方)製。おそらく48枚
着彩されていない遊戯札。初期の銅版画としても知られているとのこと。
参考画像は左から『Five of flowers』『Queen of Stegs』『The Queen of Flowers』
スートの構成はStags、Birds、Beasts of Prey (Bears and Lions)、 Wild Men、and Flowers (Roses, Cyclamen, and Pinks)
それぞれのスートは(おそらく)King、 Queen、Upper Knave、 Under Knave、 9~2; バナー(旗)無しの10もしくは1の12枚で構成されていたものと推定されています。
The Queen of Flowersとかなんだか素敵ですね。
●The Master of the Playing Cards の解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【The Courtly Hunt Cards 1440-45】
ドイツ、 Rhineland(ライランド地方)製。56枚(現存54枚)
直訳すると「宮廷の狩りカード」
参考画像は左から『5 of Herons』『Upper Knave of Falcons』『Upper Knave of Herons』
スートの構成は Falcons、Herons、Hounds、Lures
それぞれのスートはKing、Queen、Upper Knave、Under Knave、 Banner (10)および 9~1で構成されています。
タイトル通り猟をテーマに描かれていて『Knave of Falcons』というような名称になっているのが特徴。
宮廷で奥方とかが「『Upper Knave of Falcons』を引いたから鷹狩りを楽しめそうですわ」「わたくしの『Upper Knave of Herons』など鴨を9羽捕まえましたわ」などとやっていたんですかね(笑)
(本当の遊び方は不明です)
●The Courtly Hunt Cardsの解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【The Visconti-Sforza Tarot 1450】
いわゆるヴィスコンティ・スフォルツァタロットのうち「キャリーイエール版」と呼ばれるタロットパックですね。
装丁の豪華さもさることながら、描かれている人物のタッチが柔らかく感じられます。
スートの構成はCups、Swords、Batons、Coins
それぞれのスートはKing、Queen、Knight、Knaveおよび10~1で構成され、21の大アルカナとFoolがあります。
●The Visconti-Sforza Tarot解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【The Courtly Household Cards 1450】
ドイツ、 Rhineland(ライランド地方)製。48枚(現存48枚)
直訳すると『宮廷の一族』宮廷での暮らしぶりを描いたパックです。
参考画像は左から『7 of Bohemia』『King of Germany』『1 of Bohemia』
ご覧になっておわかりのように数札にも人物が描かれていることの出来る遊戯札のひとつです。
スートの構成は Germany、Bohemia、Hungary、France
それぞれのスートはKing、Queen、Master of the Household (10)、Marshal (9)、8および7 (全て違う絵柄)、 Lady-in-Waiting (6)、5~2 (全て違う絵柄), Fool (1)となっています。
●The Courtly Household Cardsの解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【The Small Playing Cards of Master ES 1460】
ドイツ、 Rhineland(ライランド地方)製。56枚(現存15枚)
参考画像は左から『King of Helmets』『Knave of Men』『6 of Birds』
Master of the Playing Cardsが人気だったのか、小型の札も出ましたよ、という感じでしょうか。
スートの構成や絵柄を見ると別物のようにも見えますね。
スートの構成はAnimals、Shields、Helmets、Flowers
それぞれのスートはKing、Queen、Upper Knave、Under Knave、9~1となっています。
●The Small Playing Cards of Masterの解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【The Cloisters Playing Cards 1475-80】
南オランダ製、52枚構成。
参考画像は左から『1 of Tethers』『King of Collars』『Queen of Collars』
スートの構成はCollars、Tethers、Horns、Nooses
それぞれのスートにKing、Queen、Knaveおよび数札が10~1とスートに違いこそあれ、いわゆるトランプ型構成となっています。
●The Cloisters Playing Cardsの解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【Woodblock Cards 1480-1520】
ドイツ、 Rhineland(ライランド地方)製。
参考画像は左から『Upper Knave of Acorns』『8 of Acorns』『Under Knave of Flowers』
正式な名称・デッキの構成・枚数不明。
Woodblockは木版絵の意味。
木版画ならではの素朴なタッチが印象的ですね。
海外のタロット紹介サイトで時々見かける割には構成が良く分からないなあ、と思っていたら構成が不明なんですね。
●Woodblockの解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【The Round Playing Cards of Master PW of Cologne 1500】
ドイツ、 Rhineland(ライランド地方)製。72枚(現存72枚)
参考画像は左から『6 of Roses』『Upper Knave of Pinks』『Upper Knave of Parrots』
スートの構成はPinks、Columbines、Roses、Parrots、Hares
それぞれのスートはKing、Queen、upper Knave、lower Knave、pipおよび10~1の札で構成されています。
1500年には、マンテーニャタロット(1490)やソラ・ブスカタロット(1491)など、私たちが「タロットの源流」の一つとして認知しているカードが登場していますが、ドイツでは遊戯札が独自の進化を遂げていたことを、今回の展覧会のウェブサイトで再確認することが出来ました。
個人的には『Upper Knave of Pinks』が図像、名称ともにツボです。
●The Round Playing Cards of Master PW of Cologneの解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【Uncut Sheet of Tarot Cards 15世紀】
北イタリア製。15世紀。
文字通りカードとして「カット(裁断)」されていないシート。
ワンド・カップ・ソード・コインのエースおよびコートカード、カップの2~9が印刷されています。
スートの構成はCups、Swords、Batons、Coins
スートはそれぞれKing、Queen、Knight、Knave、10~1で構成されていたとのこと。
これ以外にも21枚の大アルカナおよび『Fool』が存在しているとのこと(但し確認は出来ません)
ウェブサイトによっては「The Rosenwald Tarot」という名称で1500年頃に作られた、あるいは16世紀制作のものだと解説がバラバラで、ウラが取れている状況にありません。
●Uncut Sheet of Tarot Cardsの解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【The Playing Cards of Hans Schäufelein 1535】
ドイツ、ニュルンベルク製。52枚(現存48枚)
ドイツのカードの特徴として数札に絵が描かれているというものがありますが、こちらはより生活臭のある一枚と言って良いでしょう。
スートの構成はAcorns、Leafs、Hearts、Bells
各スートはKing、Upper Knave、Under Knaveおよび旗 (10)、 9~2によって構成されています。
絵柄は、少しあっさりした印象がありますね。
●Playing Cards of Hans Schäufeleinの解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【The Playing Cards of Peter Flötner 1540】
数札に絵が描かれたドイツ製の遊戯札。
こちらは動物などが描かれていますね(謎の生き物も描かれていますw)
『Les Cartes a Jouer et la Cartomancie (外部リンク・インターネット・アーカイブ)』などで取り上げられており、海外では比較的知名度があるように見えるものの、国内で取り上げられている例はあまりないように感じます。各スートの描かれ方も象徴的で、なかなか見どころのある遊技札といえるように感じます。
スートの構成はAcorns、Leafs、Hearts、Bells
各スートはKing、Upper Knave、Under Knaveおよび旗 (10)、 9~2によって構成されています。
●Playing Cards of Peter Flötnerの解説(英文・外部リンク)は、こちらをご参照下さい
【所感など】
『マンテーニャタロット 1465』や『ソラ・ブスカタロット 1491』などが省略されているのが気になるところではありますが、ウラを取りたくても資料そのものがあまり揃いにくい遊戯札の情報を閲覧することが出来てとても有意義でした。
個人的には『ヴィスコンティ スフォルツァタロット』以前の遊戯札にはどのようなものが存在し、15世紀以降のマルセイユ・タロット以外の遊戯札はどのような変遷を辿ったのかに興味を持っています。
そういうことを知る事によって「タロットカードは何故”タロットカード”になったのか」を知る事が出来ると感じているからです。
あとですね、カタログが25ドルで販売されていてなにげに欲しいのですけれど送料が38ドルも掛かってゲンナリなんですよ
誰かメトロポリタン・ミュージアムに行く予定ないですかねww