この書籍は『参考書籍』です。
本書はオズヴァルド・ヴィルトが所謂ウィルトタロットの解説をした貴重な資料です。
オズヴァルド・ヴィルトはフリーメイソンに加入し、薔薇十字団の主要なメンバーでした。
彼はクール・ド・ジェブランがとなえたタロットエジプト起源説をベースにしながら、エリファス・レヴィによって魔術化したタロットをより洗練したものとして1889年、200部の限定でタロットを作成しました。
本書には、オズヴァルド・ヴィルトが1889年および1926年版の2種類のタロットカードが美麗な印刷によって収録されています。
1889年に作成したタロットはフランス国立博物館(BnF)のウェブサイト上で閲覧できますが(※注)「紙」の状態で見る事によって得る事のできる情報は圧倒的であり、ヴィルトの足跡を辿る事に興味があるならば巻末綴込だけでも購入して損の無い一冊といえるでしょう。
※注: https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/btv1b105110785
オズヴァルド・ヴィルトが作成したタロットは『黄金の夜明け団』由来ではない魔術タロットです。
この事を踏まえなければ、この本は全く意味をなしません。
と言うのも私達が「占い札」として認知しているタロットカードは「ウェイト版タロット」であれ「トートタロット」であれ『黄金の夜明け団』という魔術団体の思想に立脚したものだからです。
カモワンタロットは『黄金の夜明け団』の思想に基づかないタロットであるのは既にご存じかと思いますがオズヴァルド・ヴィルトのタロットも『黄金の夜明け団』とは異なる思想に立脚しています。
従って、ウェイト版タロットやトートタロット、カモワンタロットを「占う」事を主軸にしている、そこから出る必要の無い占い師にはあまり縁の無い書籍といえるのかもしれません。
とはいえ。
そうした事実を差し引いても『中世絵師たちのタロット』は一読する価値がある、と私は考えています。
何故ならば、冒頭に記述したようにオズヴァルド・ヴィルトはエリファス・レヴィの影響を受けてヴィルトのタロットを、そして『中世絵師たちのタロット』を執筆しているからです。
本書の中には当然のようにカバラ思想も含まれていますが、黄金の夜明け団の思想とは乖離しています。
しかしながら、その乖離にこそ味わいが存在しているといえるでしょう。
帯にもあるように我が国にタロットが広まりつつあった1970年代に活躍した種村季弘やアンドレ・ブルトンに影響を与えた書である、ということを思いを馳せたり「タロットとは何であるか」を考える上に貴重な資料となっているのも見逃せません。
本書のタイトルである『中世絵師』というのはクール・ド・ジェブランが活躍したフランス革命前後に存在していた「遊戯札」としてのタロットカードの事を指します。
ジェブランのタロットカードエジプト起源説は、後年脆くも否定されるのですが、フランス革命前夜のパリは「イシス神の行き着く場所・神殿」であるという話も存在し、その痕跡は現在のパリ市章にも残されていますう(パリ市のマークが船であるのは有名な話)
ジェブランと前後するように登場したエテイヤが当時遊戯札として人気のあったタロットに占いの意味を持たせ、それから数十年が経過してエリファス・レヴィがタロットに魔術的な意味を付加させています。
現存するタロットは1450年のイタリア、所謂ヴィスコンティタロットと呼ばれるもので、現在でもイェール大学に保管され、ウェブサイトで閲覧が可能であるが、オズヴァルド・ヴィルトが『中世絵師たちのタロット』として言及をしているのはクールド・ジェブランが「原始世界」という書籍で発表したタロットおよびフランス革命前後に流行し、現在もそのデザインが継承されているマルセイユタロットです。
いずれにせよ、そうした歴史的背景を踏まえながら『黄金の夜明け団』とは異なる思想でレヴィやジェブランの思想を踏まえながら構築されたヴィルトの魔術的眼差しを見るということはタロットで占いをしている者にとっては非常に有益なものである、と言えるでしょう。