この本は【参考書籍】です。
『タロットの宇宙』はカモワン・タロットを復元した立役者のひとり、映画監督にして芸術家、20世紀のアートシーンに多大なる影響をおよぼしたアレハンドロ・ホドロフスキーによるカモワンタロットの解説書です。
『タロットの宇宙』は、日本語で読む事の出来る数少ない-現状日本国内で購入出来る唯一と言っても良い-カモワンタロットの解説書であり、思想書となっています。
正直なところを申し上げるなら、プロもしくはプロを目指してタロットの研鑽を行っている人であるならば必読書である事は間違いなく、私ごときが書評を行えるようなものではありません。
従いまして、広告より下はご用とお急ぎでない方にお読み頂ければ幸いと言ったしろものとなっております。
第1章 タロットの枠組みと数秘学 P27~P117
この章では、カモワンタロットの大小アルカナに対する概要が解説されています。
タイトルにもあるように数秘学を用いた解説が随所にみられますので、数秘学に対して抵抗がないほうが読みやすいでしょう。
また、このセクションを通してカモワンタロットが「カバラ」とは相違した概念によって構築されていることが良く分かります。
カモワンタロットの世界観のひとつを象徴する「マンダラ」もその一つといえるでしょう。
これをカバラ的ではない、と否定するのではなく「なぜこのように配置をしたのか。この配置から感じとれることは何か」を実際にカモワンタロットを並べながら観察することによってその思想に触れると(喩えカモワンタロットで実占をしなかったとしても)得るものは大きいといえるでしょう。
第2章 大アルカナ P119-P284
文字通り大アルカナの解説が行われているセクションです。
それぞれの大アルカナに関する解説もウェイトやクロウリーと全く異なり「カモワンタロットでなければ」成立しえない眼差しが注がれながらも、ウェイト版タロットやトートタロット、あるいはそれ以外のタロットカードたちにも通じる解釈がそこここに立ち現れているのが興味深い。
添付は『愚者』の解説に掲載されている図説なのですが、一見してウェイト版タロットやトートタロットのそれと大きく異なっているのがおわかりかと思います。
(どのように解説されているのかについては割愛致します)
各カードには『もし「愚者」が語ったら』という文章が掲載されているのですけれど、これが非常に示唆にとんでいて読みごたえがあります。
また「伝統的初解釈から」として様々な(特にどれ、と著者自身は限定していませんが)タロットカードの解釈を掲載しているのもよみどころといえるでしょう。
第3章 小アルカナ P285-P388
第3章に入ると、著者の筆舌は更に鋭くなります。
ウェイト版タロットの小アルカナの絵への批判は言うにおよばず、小アルカナと聖四文字、更にはパピュスまでその槍玉に挙げられております。
とはいえ、一定程度タロットを学んでいれば、著者のこうした言説に対し「こういう考え方もあるのね」とサラっと読む事も出来るでしょう。
小アルカナは「棒(BATON)・盃(DE COUPE)・剣(DE PEE)・金貨(DE DENIERS)」の4枚ずつ紹介されています。
小アルカナの数札(エース~10)の解説には、大アルカナに書かれているような「~が語るなら」の記載はありません。
エースの札については解説がしっかり書かれていますが、他の札に関してはそれほど解説はされていません。
それぞれの「段階(と著者が名付けた)」に対するテーマが掲げられ、解説が行われ、それぞれのスートごとの解説が行われています。
コートカードも「小姓(LES VALETS)・王妃(LES REYNES)・王(LES ROYS)・騎士(LES CAVALIES)」の「4つの段階」に分けて解説が行われています。
ウェイト版タロットだけに慣れてしまっていると、並び順や呼び方で混乱が起きるかもしれませんけれど「なぜそうなのか」も含めて観察すると面白いですよ。
コートカードには大アルカナ同様『もし「●●」たちが語るなら』という項目が掲載されています。
第4章 2枚ずつ見たタロット P389-P486
冒頭に書いたとおり『タロットの宇宙』は図録抜きで658ページという大作なのですが、第4章の段階で「半分を少し超えた」分量となっています。
第4章・第5章を使って、著者は「カモワンタロットをどのように読むのか」を丁寧に解説しています。
そして、その中の幾つかにはカモワンタロット以外でも使えると思える展開やリーディングに関するヒント・Tipsが沢山書かれています。
第4章では大アルカナのうち、著者が「代表的」だと考えた組み合わせによる解釈の例が掲出されています。
解釈の根幹となっているのはカモワンタロットに対する著者の考えに基づくものなので、この儘の状態でカモワンタロット以外に援用することは難しいですが「ウェイト版タロットや、トートタロットで同じことをするなら、どのようにすればよいか」を考える切っ掛け作りになると思います。
正直言うとウェイト版タロットで『タロットの宇宙』第4章に書かれている事と同じ事をするには、タロットに関する深く・広い造詣が必要となるのは明らかで、大変難しくもやりがいのある作業だ、と考えています。
第5章 タロットのリーディング P487-638
他の章と比較してももっともページ数が割かれているこの章は『タロットの宇宙』の中でも重要な要素を秘めているというように感じます。
章に付けられた表題を見ると、カモワンタロットの「占い方」が解説されているようにみえますし、図説を交えた解説は「タロットの占い方」を解説している部分があるのは事実です。
展開の方法やリーディングの中にカモワンタロット以外にも「使えそう」なテクニックを見つける事が出来ますし、それだけでも読み応えのある章なのですが、よみどころは著者の「タロット占い」に対する考え方です。
極めて簡潔に言ってしまえば著者は「タロット占い」に対し肯定的ではない、ということです。
後書きで監修の伊泉龍一先生も同意されていますが、個人的にも未来を予測したりアドバイスを与えたり、当たることを標榜する「タロット占い」には肯定的ではありません。
私が行っているのはタロットの展開結果を「わかりやすく」つたえることで、内容をどのように捉え、あるいは行動をするのかの最終判断は、ご依頼主様が選び取ってゆくものだ、というように思っています。
全体を通しての個人的な感想
全体を通して感じたのは、著者のホドロフスキーは極めて真摯な態度でタロットに向き合い、文字通り「タロットの宇宙」を解き明かそうとしたということ、そしてその結実がこの本、ということです。
ホドロフスキーの事を全く知らなかったとしても、彼の思想の足跡を辿ることは多いに有意義な行為といえるでしょう。
著者はウェイトに対してもクロウリーに対しても肯定的とはいえない態度を表明しています。
しかしながら、これはウェイトもクロウリーもやってきたことでもあります。
「私の考案した(見つけた)タロットの思想こそが至高である」くらいの態度が魔術師には必要なのかもしれないですね(笑)
私自身は「タロットは料理のようなもの」と考えていますので、それそれの魔術師・占い師のタロットに対する思想が異なっているのは「むしろ当然」のことであり、様々な思想に触れながら、自分なりに「タロットの世界」を構築してゆけば良いと考えております。
私が購入したのはカモワンタロットが同梱している555部限定の特装版ですが、同梱されているタロットは縦横比に特別な意味のあるカードとはいえ(その理由は是非本書を読んで確認してください)、限定版に大きい価値を見出さない人なら特装版ではなく、書籍のみをお買い求めになられたほうが良いかもしれません。
という事で、広告として挿入しているリンクは通常版のほうとなっております。