この本は【参考書籍】です。
『タロットと占術カードの世界』はレティシア・バルビエさんによる美麗で、そしてユニークな占いカード解説書です。
『タロットと占術カードの世界』を一言で表現するなら「キュレーションのユニークさ」と言えるでしょう。
タロットデッキ(注)やトランプ、ルノルマンや珍しい占い札などの占いカードが100種類以上、フルカラーで掲載されていることに目を奪われますが、カードの紹介の仕方、そして紹介されているカードの選ばれ方が面白い。
『タロットと占術カードの世界』は「大アルカナ」「小アルカナ」「カード占いと占いゲーム」「現代タロット」の4部で構成されています。
大アルカナ・小アルカナで、そして「カード占いと占いゲーム」のトランプカードでは、数種類の占い札を掲載しながら、図像の共通点、あるいは相違点を紹介する手法が用いられています。
「カード占いと占いゲーム」の後半はエテイヤ、マドモアゼルルノルマンの2人を紹介しながらカードを紹介し、その流れは「現代タロット」へと引き継がれてゆきます。
複数のカードを並列的に紹介したり現代のカードを紹介する本は例えば木星王さんの書籍などにも散見されますが、『タロットと占術カードの世界』ほど多くの占い札をフルカラーで紹介している本は類書がありません。
エテイヤ以降の占い札の選定にも著者の独特な感性を見ることが出来「現代タロット」では著者は時としてカードクリエイターとの関係性を交えながらカードおよびクリエイターの紹介をしているのが興味深いです。
著者が序文で言うように
本書は百科事典のようなものではないし、最も象徴的な例や歴史的に関連するものを紹介するものではない。私自身の気まぐれな感性をもって、その美しさやシステムの独創性、あるいはその驚くべき物語など、わたしが魅力を感じる事例を集めて紹介している
『タロットと占術カードの世界』P15
ので、例えばジェブランのタロットは全く紹介されていなかったり、ウェイト版タロットもエテイヤやルノルマンなどに比較すれば(セクションとして立てるという意味において)扱いがあまりなかったりします。
『タロットと占術カードの世界』はあくまでも著者の感性に従ってキュレーションされ、見せ方が工夫される事によって「味わい」が生まれている一冊となっています。
『タロットと占術カードの世界』は、タロットを始めとした占い札の紹介の仕方の「新しい扉」を開いた一冊といえるでしょう。
日本国内にも美しいタロットは沢山あるので、いつの日か、それらが集約され、紹介される本が出てくることも期待出来したいところです。
(※注 表記を明確にする為占いカード1枚ずつを「タロットカード」、『ウェイト版タロット』のようにひとつのカードデッキを「タロットデッキ」と表記します)
書籍の詳細は、広告の後にご紹介いたします。
はじめに声ありき レイチェル・ポラック
『タロットと占術カード』の最初に掲載されているのは『タロットバイブル』『タロットの書 叡智の78の段階』などのタロット解説書・研究書を多数執筆しているレイチェル・ポラックが『タロットと占術カード』に対して解説をしてくださっています。
序文
著者自身による『タロットと占術カード』に取り組んだ理由、および著者自身の占いカードに対する考え方を執筆しています。
著者がどのような姿勢で『タロットと占術カード』に取り組んだのかを知る為にも一読をお薦めしたいです。
カードとそのスピリチュアルなツールとしての活用法に関する簡単な歴史
ゲームの道具に過ぎなかったタロットが、いかにして「魔術」を帯びてきたのかが言及されています。
このセクションに執筆していることは鏡リュウジさんの『タロットの秘密』などでも読むことが出来ますが、併読することによって理解が深まるでしょう。
インターネットでカードの資料にあたることが出来ることやキックスターターなどでカードが販売されているなどに言及されているのも興味深いです。
大アルカナ
大アルカナには『愚者』『魔術師』『女教皇』・・・『世界』のタロットカードごとに著者が選んだ美麗な絵が掲載されています。
例えば『女教皇』にはリアーナの写真など、占いカードの本としては大胆ともいえるモチーフを使うことで読む人に想像の翼を広げさせようとしているのが伺えます。
各カードごとに十数点のタロットカードや関連する画像が解説と共に掲載されています。
例えば『愚者』を例に挙げるなら
ソーラ・ブスカ・タロット
タロッキ・フィーネ・ダッラ・トッレ
グランゴヌールシャルル6世のタロット
ヴィエヴィル・タロット
ジャン・ノヴレタロット
ミンキアーテ・ド・ポワリー
ヴィスコンティタロット
マンテーニャタロット
ウィルトのタロット
貴婦人のオラクルカードゲーム
の10枚のタロットカードが紹介されています(青文字をクリックしますと、元画像が閲覧出来ます)
『愚者』にウェイト版タロットが紹介されていないことからおわかりのように、紹介されているタロットカードはバラバラです。限られたページ数の中でひとつの種類のタロットをすべて掲載することより数多くのカードを紹介することを優先させたのも「多くの種類のカードを見て欲しい」という著者の意図があってのことなのでしょう。
カード解説はウェイト版タロットの著者なりの解釈を織り込みつつ、掲載されたカード全体を俯瞰しつつ、類似している点、類似していない点などを解説してゆく、というスタイルを採用しています。
小アルカナ
小アルカナはコイン・ソード・カップ・ワンドごとに美麗な絵と解説が掲載され、各スート2枚ずつカードが掲載されています。
例えばコインのエースを例に上げるなら
ブサンソンタロットのコインのエース
貴婦人のオラクルカードのコインのエース
の2枚が掲載されています。
小アルカナにはウェイト版タロットは掲載されていませんが、解説は、ウェイト版タロットを彷彿とさせるものとなっています。
大アルカナに比較しますと解説は少なめですが、そのぶん詩的でカードのイマジネーションを広げてゆくように感じます。
カード占いと占いゲーム
『カード占いと占いゲーム』は100ページ近くあり、タロットカードに次いで大きなコンテンツとなっています。
タロット以外のカードにも丁寧に言及している書籍は19世紀には見かけますが21世紀になってからは珍しいように思います。
カード占い
『カード占い』の項目では、カード占いの歴史を簡潔に、分かりやすく解説しています。
ダイヤのスート
ダイヤのスートに関する解説および占い上の解釈に引き続き、エース~キング迄各2枚ずつカードが掲載されています。
スペードのスート
スペードのスートに関する解説および占い上の解説に引き続き、エース~キング迄1~3枚、カードが掲載されています。
ハートのスート
ハートのスートに関する解説および占い上の解説に引き続き、エース~キング迄各2枚ずつカードが掲載されています。
クラブのスート
スペードのスートに解説および占い上の解説に引き続き、エース~キング迄各2枚ずつカードが掲載されています。
エテイヤ
エテイヤの人物伝が3ページに渡って紹介した後、『カード遊びの楽しみ方』『メンフィスの火の神殿に置かれたち「トートの書」』『グラン・エテイヤ/トートの書(8枚)』『ル・プティ・エテイヤ(8枚)』『グラン・エテイヤ/エジプティアンタロット(6枚)』『貴婦人のオラクルゲーム(8枚)』が掲載されています。
タロット・トランプはカード単位で掲載されていますが、エテイヤの項目以降は人物単位・カードパック単位での掲載に変わっています。
アートエキシビションで言うならばメインのコーナーから第2展示が始まった、というような印象です。
タロット・占いカードの歴史を俯瞰するときに、ウェイトやクロウリーやジェブランではなくエテイヤやマドモアゼル・ルノルマンといった人々にフォーカスをあて、人物伝と共にカードを紹介する手法に著者の眼差しを感じます。
マドモアゼル・ルノルマン
マドモアゼル・ルノルマンの人物伝、およびルノルマン占いの歴史について言及されています。
本書は原則として全てのカードを掲載していませんが『希望のゲーム』は例外的に36枚全てのカードが掲載されています。これは、大英博物館のウェブサイトでの展示がこのようになっているからだと思います。
ルノルマンカードは、この他に『カード占い師マドモアゼル・ルノルマンの8番目の占いカード(16枚)』『プティ・ルノルマン(8枚)』『グラン・ジュー・ルノルマン(12枚)』が掲載されています。
グラン・ジュー・ルノルマンはカードの解説にも1ページの紙幅を割いているのも特徴といえるでしょう。
マダム・デュロラ・ド・ラ・エイのヒエログリフタロット
ヒエログリフタロットを作成したマダム・デュロラ・ド・ラ・エイの人物伝とフランス国立図書館で閲覧可能な22枚及び解説のうち、18枚のカードが掲載されています。
ラ・シビル・デ・サロン
52枚構成の占い札に関する解説が17枚のカードと共に掲載されています。
この占い札のことは『タロットと占術カードの世界』で初めて知りましたが、フランス国立図書館に図像があることを確認しました。
ダス・アオゲ・ゴッデス:神の目
32枚構成の占い札に関する解説が25枚のカードと共に掲載されています。
この占い札のことは『タロットと占術カードの世界』で初めて知りましたが、フランス国立図書館に図像があることを確認しました。
アラビアン・ゲーム、あるいは算術
32枚構成のカードに関する解説、簡単な遊び方がモノクロ版12枚、カラー版9枚と共に掲載されています。
このカードの存在は知っていましたが、カードの内容については未知でしたので、参考になりました。
占星術タロット
カードに解する解説が16枚と共に掲載されています。
このデッキは、フランス国立図書館に収蔵があるものの、一時期から閲覧出来ない(検索しても出てこない)カードとなっています。
素晴らしき手相占い
『グラン・ジュ・ラ・マン』の紹介、および『グラン・ジュ・ラ・マン』の元となった手相占いの本を執筆したアデル・モローの紹介が11枚のカードと共に掲載されています。
アンティークディステニー・デッキ
32枚構成のカードに関する解説が13枚のカードと共に紹介されています。
この占い札のことは『タロットと占術カードの世界』で初めて知りました
現代タロット
「現代タロット」で取り上げられているタロットは、そのどれもがユニークで、個人販売だったりキックスターターのようなクラウドファウンディングでないと入手出来ないものが殆どです。
カードを作った人の解説を交えながらカードにも言及してゆくというスタイルも含め、他書ではあまり見かけられないものとなっています。
ブレイディタロット
『ブレイディタロット』の作者であるエミ・ブレイディと著者の交流を交えながら『ブレイディタロット』の解説が10枚のカードと共に紹介されています。
ダストⅡオニキス
『ダストⅡオニキス』の作者であるコートニー・アレクサンドロスの紹介およびカード解説が、12枚のカードと共に紹介されています。こちらのカードは2nd Editionが購入可能です。(2022年3月28日時点)
カーン&セレスニック
ニコラス・カーンとリチャード・セレスニック両名の紹介および『カーニバル・オブ・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド(24枚)』『ザ・タロット・オブ・ザ・ドローイング・ワールド(14枚)』がカード解説と共に掲載されています。
『カーニバル・オブ・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』『ザ・タロット・オブ・ザ・ドローイング・ワールド』共に購入可能です。
ゲットー・タロット
『ゲットー・タロット』の作者であるアリス・スメーツの紹介および14枚のカードがカード解説と共に掲載されています。
『ゲットー・タロット』は入手可能ですが、絶版なので非常に高額となっております。
パブロフのタロット
『パブロフのタロット』の作者であるフョードル・パブロフの紹介およびカード解説が9枚のカードと共に掲載されています。
UUSI
UUSIと呼ばれるチームの紹介のあと、彼らが手掛けたカードの紹介が行われています。
UUSIは『タロットと占術カード』を締めくくるセクションとして置かれていますが、4種類のカードが紹介されていること、そして謝辞にもマテリア・プリマタロットが掲載されていることからも著者のUUSIへの思いの深さを伺うことが出来ます。
ペイガン・アザーワールズ・タロット
ペイガン・アザーワールズ・タロットの解説が11枚のカードと共に掲載されています。
ペイガン・アザーワールズ・タロットはAmazonでも購入が可能です。
マテリア・プリマ:物質の表現
マテリア・プリマの解説が、11枚(注:謝辞にも1枚)のカードと共に掲載されています。
エロス・タロット、愛の楽園
エロス・タロットの解説が、ペイガン・アザーワールズ・タロットの解説が11枚のカードと共に掲載されています。
エロス・タロットはAmazonでも購入が可能です。
注
『タロットと占術カードの世界』内の脚注が約2P掲載されています。
書籍名なども掲載されています。
参考文献
参考にした書籍、ウェブサイトが掲載されています。
若干ではありますが邦訳されている本も掲出があります。
謝辞
著者による謝辞。マテリア・プリマのカードが添えられています。
図版
図版が掲載されています
口絵、というわけではありません。
本書で取り上げられたカードデッキ
『タロットと占術カードの世界』に取り上げられたカードデッキの日本語・原語表記が記載されています
但し、”原著の本文に即して”の表記です。
監訳者あとがき
監訳者である鏡リュウジさんによるあとがき。
約2Pに渡って書かれていて、なかなかアツいです。